会社の解散をスムーズに進めるためには、解散前の準備と解散手続きを正しく進めることが重要です。ここでは、
- 解散前の準備
- 解散手続きでやること
- 清算手続き(資産・負債の整理など)でやること
- 清算結了の手続き(会社の最終整理)
- 清算結了後にやること
に分けて各ステップを詳しく解説します。
解散前の準備(事前にやるべきこと)
会社をたたむと決めたら、すぐに手続きを始めるのではなく、状況を整理し、最適な方法を選択することが重要です。
まずは以下の点を確認しましょう。
会社をたたむ理由を整理
会社を解散する理由を明確にすることで、どの手続きを選ぶべきかが決まります。
以下のようなケースがあります。
- 事業継続が困難(業績不振・市場変化・経営資源不足など)
- 経営者の引退・後継者不在
- 経営者や株主の意向(方向性の違い・事業転換)
- 負債超過・資金繰り悪化(債務整理が必要)
→ ポイント
- 事業継続が難しいのか、それとも他の方法(M&Aなど)があるのかを冷静に分析
- 利害関係者(取締役・株主・取引先・従業員)への説明準備
取締役・株主と相談し、最適な方法を決定
会社をたたむ方法は 「通常清算」・「特別清算」・「破産手続き」 の3種類があります。
どの方法が最適かを決定するために、取締役や株主と協議しましょう。
解散方法 | 概要 | こんな場合に適用 |
通常清算 | 会社の資産・負債を整理し、債務を完済して会社を閉じる | 債務超過でなく、スムーズに清算可能な場合 |
特別清算 | 通常清算が困難な場合、裁判所の関与のもとで清算を進める | 債務超過だが、破産せずに整理したい場合 |
破産手続 | 会社の資産では債務を返済できず、裁判所の管理下で整理する | 債務超過で債権者との調整が必要な場合 |
→ ポイント
- 負債がない場合は「通常清算」が一般的
- 債務超過がある場合は「特別清算」や「破産手続き」を検討
事業継続の可能性がないか検討(M&A・事業譲渡など)
解散を決める前に、事業を他社に引き継ぐ選択肢がないか確認しましょう。
M&A(会社売却・事業譲渡) → 会社ごと売却可能な場合は検討
部分譲渡(事業の一部のみ売却) → 特定の事業を他社へ売る選択
親族・従業員への承継 → 事業を引き継ぐ後継者がいるか確認
→ポイント
- M&Aを活用すれば、従業員の雇用を維持できる可能性がある
- 会社売却に興味がある場合は、M&A仲介会社などに相談
負債の状況を確認し、債務整理の計画を立てる
負債がある場合は、どのように整理するかを決めることが重要です。
- 金融機関や取引先への借入・未払い金をリストアップ
- 資産(売掛金・不動産・在庫)で負債を返済できるか確認
- 返済が難しい場合、金融機関と交渉
- 特別清算・破産手続きを検討する場合は専門家と相談
従業員・取引先・金融機関へ解散の意向を伝える
会社の解散が決定したら、早めに関係者へ通知することが大切です。
- 従業員への説明(退職手続き・給与支払いスケジュール)
- 取引先・仕入先への通知(契約解除・未払金の精算)
- 金融機関への報告(融資・リース契約の整理)
従業員の退職手続き(解雇予告・退職証明書の発行)
会社を解散すると、従業員は全員退職することになります。
労働基準法に則り、適切な手続きを行いましょう。
🔹 解雇予告または解雇予告手当の支払い
- 解雇の30日前までに通知しなければならない
- 30日未満の場合、不足日数分の給与を「解雇予告手当」として支払う(労働基準法第20条)
- 解散に伴う退職であっても、実質的に「解雇」となるため注意
🔹 退職証明書の発行(希望者のみ)
- 退職した従業員が次の就職先で必要になる場合がある
- 申請があれば速やかに発行
🔹 社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
- 健康保険・厚生年金 → 年金事務所へ「資格喪失届」を提出
- 雇用保険 → ハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出
- 離職票の発行(希望者のみ) → 退職後に失業保険を申請する場合、ハローワークへ手続き
🔹 未払い給与・退職金の支払い
- 最終給与を支払う(未払いがないか確認)
- 退職金がある場合は規定に従い支払う
→ ポイント
- 解雇予告手当を支払うことで即時解雇も可能
- 社会保険・雇用保険の手続きが完了するまで時間がかかるため、早めに対応
取引先・顧客へ最終連絡(問い合わせ対応)
会社の取引先や顧客に対して、最終的な連絡を行いましょう。
🔹 取引先への通知
- 仕入先や業務委託先に解散通知を送付(契約解除・未払い金の精算)
- 未回収の売掛金がある場合、最終請求を行う
🔹 顧客への対応
- サービス終了の告知(メール・電話・HP・SNSなどで案内)
- 保証・アフターサービスの対応 → 他社へ引き継ぐ場合、顧客に案内
- 問い合わせ窓口の閉鎖 → クレームや返金対応が残らないよう注意
→ ポイント
- 取引先とトラブルにならないよう、書面で通知を行う
- 顧客対応を丁寧に行い、信用を維持する
会社の解散時に行う行政手続き
清算事務である資産・負債の整理については次項で解説しますので、本項では会社の解散を正式に進めるための行政手続きを解説します。
株主総会で「解散決議」
解散を正式に決めるため、株主総会での決議が必要です。
株主総会での解散決議は、特別決議(出席株主の2/3以上の賛成)で行います。
清算人の選任(通常は代表取締役が担当)
解散後、会社の資産・負債を整理する「清算人」を選任します。
- 通常は代表取締役が清算人に就任
- 株主総会で清算人を正式に決定
解散登記の申請(法務局)(解散日から2週間以内)
- 解散登記申請書を作成
- 株主総会議事録・清算人の承諾書を添付
- 解散日から2週間以内に法務局へ申請
解散期の確定申告及び届け出(解散届の提出)
① 税務署への提出書類
- 法人の解散届出書(解散後1か月以内)
- 解散事業年度の法人税・消費税の確定申告書(解散の日から2か月以内)
- 青色申告の取りやめ届出書(該当する場合)
② 都道府県・市区町村への提出
- 法人の解散届出書(各自治体へ提出)
- 事業税・住民税の申告書(必要に応じて
→ ポイント
- この確定申告をしないと、税務署から督促が来る可能性がある
- その後も、清算結了時にもう一度確定申告が必要(清算確定申告)
社会保険・労働保険の手続き(加入者の資格喪失手続き)
- 健康保険・厚生年金の資格喪失届を年金事務所へ提出
- 雇用保険の資格喪失届をハローワークへ提出
これらの手続きを正しく進めることで、トラブルを防ぎ、スムーズに会社を閉じることができます。
次のステップは 「清算手続き」 となります。
清算手続き(資産・負債の整理など)でやること
会社の解散後は、すべての資産と負債を整理し、法人としての義務を果たす必要があります。ここでは 「債務・資産の整理」 と 「契約の解約・処分」 について詳しく解説します。
(1)債務・資産の整理
資産を換金し、債務を精算することが目的です。以下のポイントを確認しながら進めましょう。
売掛金の回収(未収金の確認と請求)
会社の解散後も、未回収の売掛金がある場合は適切に請求・回収する必要があります。
- 取引先ごとに未収金をリストアップ(売掛金台帳を作成)
- 契約内容を確認し、請求可能な売掛金か精査
- 取引先に最終請求書を送付し、支払期日を設定
- 支払遅延が発生した場合は電話や訪問で回収交渉
- 回収困難な場合は弁護士・債権回収会社に相談
→ ポイント
- 取引先が倒産する前に回収を進める
- 法的手段が必要になる場合は早めに専門家に相談
買掛金・借入金の支払い(取引先・銀行へ返済)
会社が負っている買掛金や借入金は、債権者と交渉しながら適切に処理することが重要です。
- 取引先・金融機関ごとに負債をリスト化
- 支払期日・契約内容を確認し、優先順位を決める
- 支払期限が迫っているものから順次支払い
- 資金不足の場合は、分割払いの相談をする
- 債務整理が必要な場合は、特別清算や破産手続きを検討
→ ポイント
- 負債を整理しながら、解散後の資金計画を立てる
- 取引先や金融機関と誠実に交渉する
固定資産の売却(不動産・設備・車両など)
会社が所有している固定資産は、可能な限り売却し現金化します。
- 売却対象の資産をリストアップ(不動産・機械・備品など)
- 売却先を選定し、査定・見積もりを依頼
- 取引先・専門業者・オークションサイトなどを活用
- 必要に応じてリース契約の解除手続き
- 売却代金を清算口座に入金し、最終精算に充てる
→ ポイント
- 高額な資産(不動産・車両など)は早めに売却先を探す
- 必要に応じて税理士と相談し、譲渡益課税を確認
在庫・商品を処分(買取業者・廃棄)
会社の在庫や商品を適切に処理し、残らないようにします。
- 在庫をリストアップし、販売可能なものを選別
- 通常販売・割引販売・まとめ売りなどで処分
- 買取業者・オークション・BtoBマーケットで売却
- 売却が難しいものは、産業廃棄物として適正に処分
→ ポイント
- 廃棄処分には産業廃棄物のルールを遵守する
- 法人向けリユース業者を活用すると現金化しやすい
未払給与・退職金の支払い(労基法の規定に従う)
従業員の給与・退職金は最優先で支払うべき債務です。
- 最終給与・未払い残業代を計算し、支払日を決定
- 退職金規定に基づき、支給額を算出
- 退職金の源泉徴収税を計算し、支払調書を作成
- 給与・退職金支払後に、社会保険・税金の納付手続き
→ ポイント
- 会社都合退職の場合、解雇予告手当が必要なケースがある
- 退職金の税金処理を間違えないよう注意
社会保険・税金の未払い確認(滞納がないかチェック)
税金や社会保険料の未払いがあると、会社の解散後も責任が残るため注意。
- 未払いの法人税・消費税・事業税を確認
- 社会保険料・厚生年金・労働保険料の最終納付
- 税務署・年金事務所・労働基準監督署と最終確認
→ ポイント
- 未払いがあると、清算結了ができない
- 社会保険料は解散登記後も納付義務が発生する場合がある
(2)契約の解約・処分
事業用の契約をすべて解約し、無駄な支出をなくします。
事務所・店舗の賃貸契約解約(退去日・違約金の確認)
- 貸主へ契約終了の通知をする(解約予告期間を確認)
- 原状回復の範囲を確認し、工事業者を手配
- 敷金の返還交渉(原状回復費用との相殺を確認)
- 退去時に立ち会いを行い、鍵を返却
水道・電気・インターネット回線の解約
- 各契約の解約手続きを進める(1ヶ月前に申請が必要な場合も)
- 電気・水道の最終使用日を決定し、清算
- 通信機器・ルーターを返却(プロバイダとの契約確認)
リース契約(コピー機・車など)の解約
- 契約書を確認し、解約手続きの条件を確認
- 違約金が発生するかをチェック
- リース会社と調整し、機器の返却手続きを実施
銀行口座の整理(解約または残高調整)
- 全ての入出金が完了したことを確認
- 銀行に解約手続きを依頼し、口座を閉鎖
会社名義のクレジットカード・サブスクリプション解約
- 法人クレジットカードの解約手続きを実施
- クラウドサービスやサブスク契約をすべて停止
次のステップとして、「清算結了の手続き」を行い、会社を完全に閉じます。
清算結了の手続き(会社の最終整理)
会社をたたむ際の最終ステップが「清算結了の手続き」です。
この手続きを完了すると、法人格が消滅し、正式に会社がなくなります。
ここでは、清算結了までの流れを詳しく解説します。
清算報告書を作成
清算手続きを進める中で、会社の資産・負債がすべて整理されていることを確認し、最終的な決算をまとめます。
【清算報告書に記載する項目】
- 現金・預金の最終残高(残った資産の総額)
- 債務の最終状況(未払いの負債がないか確認)
- 資産の処分結果(売却した固定資産の処理内容)
- 残余財産の分配予定(清算後に株主へ分配する財産の額)
株主総会で「清算報告書」を承認
清算報告書が完成したら、株主総会を開催し、正式に承認を得ます。
必要な書類
- 株主総会議事録(清算報告書の承認が記載された議事録を作成)
- 清算報告書
→ ポイント
- 株主総会の承認がないと、次の清算結了登記に進めない
- 株主が1人しかいない場合でも、議事録を作成する
清算確定申告(税務署)
最後の法人税・消費税の確定申告及び税務署・自治体に「清算結了届」を提出します。
① 税務署への提出書類
- 清算確定申告書(清算結了日から1か月以内)
- 残余財産が発生した場合の法人税・消費税申告書
② 都道府県・市区町村への提出
- 法人の清算結了届出書
- 事業税・住民税の清算申告書
→ ポイント
- 申告が遅れると延滞税が発生するため、速やかに対応する
- 忘れると、自治体から不要な税金の請求が来る可能性がある
- 「法人の廃業届」も併せて提出すると手続きがスムーズ
清算結了登記の申請(法人格が消滅)
清算結了登記を行うことで、会社は正式に消滅します。
提出書類
- 清算結了登記申請書(法務局へ提出)
- 株主総会議事録(清算報告書の承認)
- 登録免許税(2,000円)
・提出期限
- 清算報告書の承認から2週間以内
→ ポイント
- 清算結了登記を完了すると、会社の法人格が正式になくなる
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得すると、登記が完了したことを確認できる
残った財産を株主へ分配
すべての債務を支払い終えた後、残った財産がある場合は、株主に分配します。
【分配方法】
- 現金の場合 → 株主の出資比率に応じて分配
- 資産(不動産・車など)が残っている場合 → 評価額を決めて分配
→ ポイント
- 残余財産がある場合、個人の所得税が発生する可能性があるため注意
- 債務超過で財産がない場合は分配不要
- 法人税の申告後に分配を行う(税金の未払いを防ぐ)
清算結了後にやるべきこと
会社の解散・清算手続きが終わった後でも、書類整理など、最後にやるべきことがあります。
ここでは、会社を完全に閉じるために必要な対応事項について詳しく解説します。
会社のウェブサイト・SNSの閉鎖
会社のホームページやSNSアカウントをそのまま放置しておくと、詐欺や情報流出のリスクがあるため、閉鎖・削除を行いましょう。
🔹 ウェブサイトの閉鎖
- ドメイン・サーバーの解約(契約会社に解約申請)
- ホームページの削除(制作会社や管理者に依頼)
🔹 SNSアカウントの削除
- X(旧Twitter)・Facebook・Instagram・LinkedInなどのアカウント削除
- YouTubeチャンネルの閉鎖(動画も削除)
🔹 Googleマイビジネスの削除
- Google検索やGoogleマップ上での情報を削除
→ ポイント
- 一部のSNSは、アカウント削除後も一定期間データが残るため、早めに手続きする
- ウェブサイトの閉鎖前に重要情報をバックアップしておく
会社の印鑑の破棄
会社が解散すると、会社の印鑑(実印・銀行印・角印など)は不要になります。
悪用を防ぐため、適切に処分しましょう。
🔹 破棄する印鑑の種類
- 会社の実印(法務局に登録した印鑑)
- 銀行印(金融機関で使用していた印鑑)
- 角印(契約書や請求書で使用)
🔹 破棄の方法
- ハンマーで砕く・カッターで削る(押印できない状態にする)
- 専門業者に依頼(印鑑供養を行う業者もある)
- 焼却処分(燃える素材の場合)
→ ポイント
- 清算結了登記後に破棄する(手続きが完了するまでは保管しておく)
- 実印を使っていた場合は、法務局へ「印鑑廃止届」を提出
会社の書類の保管(7年間の保管義務あり)
会社の解散後も、議事録や税務関連の書類は7年間~10年の保管義務があります。
可能性は低いですが。突然税務調査が入る可能性もあるため、適切に保管しましょう。
・税務に関する保管が必要な書類(7年間)
- 法人税の確定申告書・決算書・帳簿類
- 請求書・領収書・契約書
- 給与台帳・源泉徴収簿
会社法の規定により保管義務がある書類(10年間)
・主な書類
- 株主総会議事録(解散決議・清算結了決議)
- 定款・登記事項証明書(会社の基本情報)
- 株主名簿・出資者の記録
- 清算報告書・財産分配の記録
・保管場所の選定
- 代表者が自宅で保管
- 税理士・会計事務所に預ける
- 書類保管サービスを利用する
→ ポイント
- 電子データの場合も保管義務がある
- 破棄の際はシュレッダーで処理し、情報漏えいを防ぐ
代表者の個人事業主登録(必要に応じて)
会社をたたんだ後も、事業を継続したい場合は「個人事業主」として開業することができます。
開業届の提出(税務署)
- 個人で事業を続ける場合「個人事業の開業届」を税務署に提出
- 青色申告を希望する場合は、「青色申告承認申請書」も提出
銀行口座の変更
- 個人名義の銀行口座を用意(旧会社口座は解約する)
取引先への通知
- 個人事業として継続する場合は取引先に新しい事業形態を案内
→ ポイント
- 事業内容によっては法人よりも税負担が軽くなる場合がある
- 今後法人化する可能性がある場合、「合同会社」の設立も検討する
まとめ
会社をたたむ際には、解散・清算だけでなく、最後の事務処理をしっかり行うことが重要です。
特に、従業員対応・取引先対応・書類保管は、後々のトラブルを防ぐためにも慎重に進めましょう。