法人を個人事業に変更するには?手続きとポイントを解説

解散・清算手続きコラム

法人を個人事業に変更(法人成りの逆)するには、法人の解散手続きと個人事業の開業手続きが必要です。

また、法人を完全廃業する前に個人で事業を始めていいのかなど、戸惑うことも少なくありません。本記事では、その手順を分かりやすく解説します。

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スマハイ事務局
  1. 法人の解散手続き
    1. ① 株主総会で解散決議を行う
    2. ② 解散登記の申請(法務局)
    3. ③ 清算手続き(債務整理・財産処分)
    4. ④ 清算結了登記の申請
  2. 個人事業の開業手続き
    1. ① 開業届の提出(税務署)
    2. ② 青色申告承認申請書の提出(節税対策)
    3. ③ 事業用の銀行口座・屋号の決定
  3. その他の注意点
    1. 社会保険の切り替え
    2. 許認可の再取得
    3. 取引先への通知
  4. 法人をたたむ前に個人事業を始めるのは違法?
    1. 法律上の問題点
      1. 競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ) に抵触しないか?
      2. 法人の資産や売上を勝手に個人事業に移さないこと
      3. 法人の債務がある場合、個人事業が影響を受ける可能性
  5. 法人をたたむ前に個人事業を始める際の税務リスクと注意点
    1. 1. 法人と個人の売上を混同しない(法人税・所得税の問題)
      1. 避けるべきケース
      2.  正しい対応
    2. 法人から個人への資産移転(みなし譲渡課税)
      1. みなし譲渡課税とは?
      2. 正しい対応
    3. 法人の赤字を個人事業の利益と相殺できない
      1. 法人と個人の税務処理の違い
      2. 節税の工夫
    4. 消費税の適用ルールの違い
      1. 法人で消費税を納めていた場合
        1. 免税事業者になる条件
      2. 注意すべき点
  6. 法人から個人事業へ経理を切り替える適切なタイミングは?
    1. 経理を切り替える適切なタイミング
      1. 法人の事業活動を停止する時点
      2. 法人の解散を決定し、清算手続きに入る時点
      3. 法人の決算期終了後、新年度から個人事業に切り替える
    2. 切り替え時に必要な具体的な経理処理
      1. 法人から個人へ移行する際のチェックリスト
        1. 法人の経理処理
        2. 個人事業の経理スタート
    3. おすすめの経理切り替えタイミング
  7. まとめ

法人の解散手続き

法人を個人事業にするには、まず法人を解散・清算する必要があります。

① 株主総会で解散決議を行う

会社の株主総会を開き、「会社を解散する」ことを決議します。特に株式会社の場合、特別決議(議決権の2/3以上の賛成)が必要です。

② 解散登記の申請(法務局)

株主総会で解散が決まったら、法務局で解散登記を行います。

提出書類(一例)

  • 解散登記申請書
  • 株主総会議事録
  • 登記費用:39,000円の登録免許税

③ 清算手続き(債務整理・財産処分)

解散後、法人の資産や負債を整理する「清算手続き」を行います。主な作業は以下のとおりです。

  • 未払いの債務を支払う
  • 残った資産を株主へ分配する
  • 取引先や債権者へ解散を通知する

④ 清算結了登記の申請

清算が完了したら、「清算結了登記」を行います。これで法人は正式に消滅します。
登記費用は登録免許税の2,000円です。

個人事業の開業手続き

法人の解散後、個人事業として事業を継続する場合は、新たに個人事業主として開業届を提出する必要があります。

① 開業届の提出(税務署)

個人事業を開始する際には、「個人事業の開業・廃業等届出書」 を税務署に提出します。
提出期限は、開業日から1ヶ月以内 です。

② 青色申告承認申請書の提出(節税対策)

青色申告を利用すると、最大65万円の控除赤字の繰越 ができるため、節税効果があります。開業届と一緒に提出するのがおすすめです。

③ 事業用の銀行口座・屋号の決定

法人時代の銀行口座は閉鎖する必要があるため、個人事業用の口座を開設しましょう。屋号(ビジネスネーム)も自由に決めることができます。

その他の注意点

社会保険の切り替え

法人の代表取締役は社会保険に加入していましたが、個人事業主になると国民健康保険・国民年金 に切り替える必要があります。

許認可の再取得

業種によっては、法人で取得した許認可が無効になる場合があります。個人事業として事業を継続する場合は、改めて許認可を取得する必要があります。

取引先への通知

法人から個人事業に移行する際は、取引先に事前に通知しておきましょう。法人名義の契約があれば、名義変更再契約 が必要になります。

法人をたたむ前に個人事業を始めるのは違法?

法人を完全に閉鎖する前に個人事業を立ち上げるケースは珍しくありません。
たとえば、「法人の清算手続き中に個人事業を開始したい」「法人を閉じるか決める前に個人事業を試してみたい」などの状況が考えられます。

このような場合、法的に問題があるのかどうかを解説します。

法律上の問題点

基本的に、法人を完全にたたむ前に個人事業を始めることは 違法ではありません
しかし、いくつかの法律に注意する必要があります。

競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ) に抵触しないか?

法人の代表者や取締役が、会社を存続させたまま個人事業を始める場合、法人の事業と競合するビジネスをすると 競業避止義務 に抵触する可能性があります。

  • 会社の定款に「競業避止義務」が記載されている場合
    → 会社の許可なしに個人事業を始めると、取締役の義務違反になる可能性があります。なお、 一人会社の場合は問題になることはありません。

法人の資産や売上を勝手に個人事業に移さないこと

法人には「法人と個人は別人格」という原則があり、法人の資産を個人に移すことは慎重に行う必要があります。

問題になりやすいケース

  • 法人名義の売上を個人事業の売上として計上する(脱税とみなされる)
  • 法人の銀行口座から勝手に個人事業用に資金を移す(法人資産の私的流用)
  • 法人の設備・在庫を無償で個人事業に移転する(適正な売買が必要)

→ 資産を個人事業に移す場合は、法人から個人へ「適正な価格」で売却する形にすることが重要です。

法人の債務がある場合、個人事業が影響を受ける可能性

法人に借入金や未払いの債務がある場合、個人事業を始めたことで債権者から不利な扱いを受けることがあります。

考えられるリスク

  • 会社の債権者が「法人の資産を個人に移して債務を逃れようとしている」と疑う
  • 代表者個人が連帯保証人になっている場合、法人の負債が個人に及ぶ

→ 法人の債務がある場合は、債権者と話し合いながら慎重に対応しましょう。

法人をたたむ前に個人事業を始める際の税務リスクと注意点

法人を完全に閉鎖する前に個人事業を始めることは違法ではありませんが、税務面では慎重に対応しないと問題が生じる可能性 があります。

1. 法人と個人の売上を混同しない(法人税・所得税の問題)

避けるべきケース

  • 法人で受け取るべき売上を個人事業の売上として計上する
  • 法人の経費を個人事業の経費として処理する
  • 法人の資産(設備・在庫・顧客リストなど)を無償で個人事業へ移転する

これらの行為は 法人税法や所得税法の違反 になる可能性があり、税務調査で指摘されると 追徴課税 の対象になります。

 正しい対応

  • 法人と個人の取引を明確に分け、売上は法人のものは法人へ、個人事業のものは個人へ 記録する
  • 法人の資産を個人事業で使う場合は、適正な価格で売買する(時価での譲渡が基本)

法人から個人への資産移転(みなし譲渡課税)

法人が所有している資産(設備、在庫、不動産など)を、個人事業で使うために移す場合、税務上の注意点があります。

みなし譲渡課税とは?

法人が資産を個人へ売却または譲渡する際、市場価格(時価)よりも低い価格または無償で譲渡すると、税務上は時価で売却したとみなされる ルールです。

  • みなし譲渡課税が適用されるケース
    法人の在庫や設備を無償で個人事業に移した → 時価で売却したとみなされ、法人税が課税される
  • 100万円相当の資産を個人に10万円で売却 → 90万円分の利益が法人に発生したとみなされ、法人税がかかる

正しい対応

  • 法人から個人へ資産を移転する場合は、時価での売買契約 を行い、法人の会計処理を適正に行う

法人の赤字を個人事業の利益と相殺できない

法人が赤字の場合、「個人事業の利益と相殺して税金を減らしたい」と考えるかもしれませんが、法人と個人の税務は別扱い なので、赤字を個人事業の所得と相殺することはできません

法人と個人の税務処理の違い

  • 法人の赤字は「法人税」に影響し、個人の赤字は「所得税」に影響する
  • 個人事業の利益が発生しても、法人の赤字とは相殺できず、法人が赤字でも個人は所得税を支払う必要がある

節税の工夫

  • 法人の赤字を繰越控除(最大10年間)することで、今後の法人収益と相殺できる可能性がある
  • 法人が閉鎖されると赤字は消滅するため、法人をたたむタイミングを慎重に考える

消費税の適用ルールの違い

法人と個人事業では、消費税の納税義務のルール に違いがあります。

法人で消費税を納めていた場合

法人の売上が1,000万円を超えており、消費税の課税事業者だった場合、法人をたたんで個人事業を始めると消費税の免税事業者になる可能性がある

免税事業者になる条件
  • 個人事業の売上が1,000万円以下なら、最長2年間は消費税を納めなくてよい
  • ただし、法人の売上を引き継ぐ形で個人事業を開始した場合、消費税の免税が認められないケースがある

注意すべき点

  • 法人で取引していた得意先が、消費税の課税事業者であることを条件に取引している場合、個人事業で免税事業者になると取引に影響が出る可能性がある
  • 法人成りの逆パターン(個人→法人)と同じように、消費税の適用について税務署に確認するのが無難

法人から個人事業へ経理を切り替える適切なタイミングは?

法人を閉じる前に個人事業を始める場合、どの時点で法人の経理をストップし、個人事業の経理をスタートするか は非常に重要です。切り替えのタイミングを間違えると、税務上のリスクや経理処理の混乱が生じる可能性があります。

ここでは、適切なタイミングと具体的な経理の切り替え方法を解説します。

経理を切り替える適切なタイミング

法人から個人事業に移行する際、以下の 3つのタイミングのいずれか で経理を切り替えるのが適切です。

法人の事業活動を停止する時点

(法人の売上がなくなり、新規取引を個人事業として始めるタイミング)

  • メリット:法人と個人の経理を明確に分けられる
  • デメリット:個人事業の準備を並行して進める必要がある

まず法人の取引を完全に終了し、売掛金や買掛金を整理した上で個人事業を開始するとスムーズ。

法人の解散を決定し、清算手続きに入る時点

(法人の解散登記を申請し、法人の清算手続きを開始したとき)

  • メリット:法人の資産・負債が確定し、経理を法人と個人で明確に区分できる
  • デメリット:法人の解散手続きが完了するまで個人事業を本格稼働しにくい

法人の「解散」後は、清算会社として法人の会計処理を続けながら、個人事業の経理を並行して開始。

法人の決算期終了後、新年度から個人事業に切り替える

(法人の決算が終わったタイミングで個人事業の経理を開始する)

  • メリット:法人と個人の会計年度を完全に分けられる
  • デメリット:個人事業の開始を決算期まで待つ必要がある

決算を締めた後に、法人の事業を整理し、個人事業に移行すると会計処理がスムーズ。

切り替え時に必要な具体的な経理処理

法人から個人へ移行する際のチェックリスト

法人の経理処理
  • 法人の売掛金・買掛金を整理し、残高を確定する
  • 法人の資産(設備・在庫など)の移転を適正価格で行う
  • 法人の銀行口座を閉鎖、または清算用に管理する
  • 法人の決算・清算書類を作成し、法人税申告を完了する
個人事業の経理スタート
  • 個人名義の銀行口座を用意(法人の口座とは別)
  • 個人事業の売上・経費の記帳を開始(会計ソフトの新規登録など)
  • 消費税の免税・課税事業者の確認(法人の取引を引き継ぐ場合は注意)
  • 個人事業主として青色申告の準備(開業届と一緒に提出すると有利)

おすすめの経理切り替えタイミング

タイミング メリット デメリット
法人の事業停止時点 個人事業の経理をスムーズに開始できる 法人の清算処理と並行する必要あり
法人の解散手続き開始時点 法人と個人を明確に分けられる 法人の清算期間中は手続きが必要
法人の決算後の新年度 法人の会計年度を区切れる 個人事業の開始を待つ必要がある

まとめ

法人を個人事業にするには、法人の解散・清算手続きを行い、個人事業の開業届を提出する必要があります。

法人を個人事業にする際は、税務面や契約関係など考慮すべき点が多いため、事前にしっかり準備しましょう。場合によっては、税理士や司法書士に相談 するのもおすすめです。