会社の解散手続きは、業種ごとに異なる法規制や届出が必要になる場合があります。
本記事では、主要な業種別に解散時のポイントを分かりやすくまとめましたので参考にしてください。
1. IT・ソフトウェア業界
主要な契約の解除手続き(クラウドサービス、ライセンス契約など)を確認。
- 使用中のクラウドサービス(AWS、Azure、Google Cloudなど)の契約を確認し、必要に応じて解約申請。
- ソフトウェアのライセンス契約(SaaS、サブスクリプション型ソフトウェアなど)の自動更新を防ぐため、契約終了日の確認と手続き実施。
- 外部委託先(開発会社、フリーランスなど)との契約解除手続きを進める。
顧客や取引先への通知を適切に行い、サポート契約の終了を明確化。
- サービスの停止日時を事前に顧客へ通知し、サポート契約の最終対応日を明確にする。
- 重要な取引先との契約終了条件を確認し、違約金などのリスクを事前に精査。
- 定期的な請求処理がある場合は、未処理の請求の精算手続きを行う。
ソースコードやデータの取り扱いについて、適切な処理を行う。
- 自社開発のソフトウェアやアプリのソースコードの権利関係を整理し、売却・譲渡の可能性を検討。
- 外部に提供しているAPIやデータベースの接続を適切に遮断し、情報漏洩を防ぐ。
- バックアップデータの取り扱いポリシーを決定し、不要データは完全削除。
社内のサーバーやクラウドストレージのデータ削除手続き。
- 社内サーバー(オンプレミスの場合)のデータ削除と機器の処分。
- クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox、OneDriveなど)の不要データの整理・削除。
- 社員アカウントの削除・権限管理の整理を行い、アクセス制限を徹底。
機密情報の漏洩を防ぐための従業員・関係者向けガイドラインの作成。
- 社員が持つ社内資料や秘密情報の管理を徹底するため、ガイドラインを作成。
- 退職・転職する社員に対して、秘密保持契約(NDA)の再確認を行う。
- 使用していたパスワード管理ツールの情報を整理し、アクセスできるメンバーを制限。
2. 飲食業界
保健所への廃業届の提出が必要。
- 飲食店営業許可証の返納手続きが必要。
- 廃業届の提出後、保健所の指導に従い、設備の撤去などの確認を受ける。
従業員への解雇通知と退職金支払いの準備。
- 労働基準法に基づき、解雇通知を最低30日前までに行う。
- 社会保険や雇用保険の脱退手続きを進める。
- 未払い給与・退職金の精算を適切に行い、書面で従業員に通知。
食材や厨房機器の在庫処分を適切に実施。
- 使用期限が迫る食材は、廃棄または他店への譲渡を検討。
- 余剰の厨房機器や調理器具は、買取業者や中古市場を活用して売却。
店舗の原状回復工事を行い、賃貸契約を解除。
- 賃貸契約書の内容を確認し、原状回復義務の範囲を把握。
- 退去時の修繕工事を専門業者に依頼し、オーナーと合意のうえで解約手続きを行う。
食品衛生管理責任者や防火管理者の資格返納手続き。
- 食品衛生管理者の資格証明書を管轄の保健所へ返納。
- 防火管理者の届け出を消防署に行い、責任者変更または撤回を申請。
顧客への会員サービスやギフト券の処理。
- 会員制サービスを提供している場合、最終営業日を告知し、未使用分の返金を検討。
- ギフト券・クーポンの未使用分について、払い戻しポリシーを決定し、顧客に通知。
3. 建設業界
建設業許可の廃業届を提出。
- 国土交通省または都道府県へ、建設業許可の廃業届を提出。
未完工事の処理と関係先(発注者・協力会社)への説明。
- 進行中の工事の契約内容を確認し、適切な引き継ぎを調整。
- 発注者や協力会社と協議し、契約解除または別業者への引き継ぎを行う。
工事保証や瑕疵担保責任を考慮し、契約解除を慎重に行う。
- 解散後も瑕疵担保責任が発生する可能性があるため、保証期間を確認。
- 必要に応じて保証会社との契約を継続するか、保険でリスクをカバー。
残存する機材や資材の売却・処分を適切に実施。
- 使える機材はリース返却または売却し、不要な資材は処分。
- 機材買取業者やオークションを利用し、資産の整理を進める。
労災保険や建設業独自の年金制度の解約手続き。
- 建設業退職金共済制度(建退共)の清算。
- 労災保険や雇用保険の廃止手続きを労働基準監督署に申請。
4. 小売・EC業界の解散時のポイント
在庫の処分セールや返品対応を計画的に実施
- 店舗やECサイトでの「閉店セール」を行い、在庫を可能な限り売り切る。
- 一定期間を設けた値引き計画を立て、利益を最大化する。
- 返品ポリシーを事前に明確にし、返品処理が滞らないようにする。
通販業の場合、消費者への返金対応が必要
- 未発送の注文や定期購入契約について、返金対応を適切に行う。
- 返金手続きをスムーズに進めるため、決済代行会社と調整する。
- クレジットカード決済や銀行振込など、返金方法の明示が必要。
店舗の場合、賃貸契約の解約と在庫処分を早めに進める
- 退去時の原状回復義務や解約通知の期限を確認し、貸主と交渉する。
- 在庫の買取業者と連携し、残った商品を売却する。
- 備品や什器の処分方法(売却・リース返却・廃棄)を整理する。
顧客情報の適切な処理(個人情報保護法の遵守)
- 顧客データは個人情報保護法に則り、削除または適切に保管。
- メールマガジンや会員データの利用停止と削除対応を実施。
- 必要に応じてプライバシーポリシーの改訂を行い、通知する。
物流センターや配送業者との契約解除手続き
- 物流倉庫の契約解除に伴い、残存在庫の扱いを決定。
- 配送業者との契約解除スケジュールを確認し、違約金が発生しないよう調整。
- 出荷済み商品の追跡や未配達分の処理を最後まで対応する。
5. 医療・福祉業界の解散時のポイント
診療所・介護施設の廃止届を自治体へ提出
- 医療機関の場合は「診療所廃止届」、介護施設の場合は「介護事業廃止届」を自治体に提出。
- 廃止届の提出期限や必要書類を確認し、スケジュールを組む。
- 施設の利用者や家族、関係者に対して適切な通知を行う。
患者・利用者のカルテや記録の適切な管理・引継ぎ
- 医療法に基づき、カルテの保存義務(原則5年間)を遵守。
- 必要に応じて、他の医療機関や行政機関と引継ぎを調整。
- 電子カルテの場合、データの消去・保管方法を明確にする。
医療機器や薬品の適正な処分方法の確認
- 医療機器のリース契約解除や、メーカー・業者への返却を実施。
- 余った医薬品は適切な方法で廃棄(薬剤師や専門業者に相談)。
- 感染性廃棄物などの処理は、法令を遵守し専門業者に依頼。
従業員・スタッフの転職支援や契約解除の準備
- 従業員の雇用契約の終了通知を適切なタイミングで行う。
- 退職金・未払給与の支払いを計画し、トラブルを防ぐ。
- 必要に応じて転職支援(ハローワーク・転職エージェントの活用)を行う。
保険診療の精算処理を完了させる
- 健康保険・介護保険の請求業務を完了し、未払い請求を整理。
- 国民健康保険団体連合会(国保連)や社会保険診療報酬支払基金(社保支払基金)への最終請求を提出。
- 返戻請求(支払い不足の修正)などの対応を適切に行う。
施設利用者や家族への通知を円滑に行う
- 施設の利用者および家族へ、解散・閉院の通知を行う。
- 必要に応じて代替施設の紹介や、他の医療機関との連携を行う。
- 苦情や問い合わせに対応できる窓口を設置し、円滑な対応を心がける。
6. 製造業の解散時のポイント
製造設備の売却・廃棄の手続き
- 使える機械や設備はリース会社・専門業者を通じて売却を検討。
- 老朽化した設備は産業廃棄物処理業者と連携し、適切に廃棄。
- 機械のリース契約がある場合は、契約解除や返却手続きを進める。
在庫や原材料の処分方法を決定
- 仕掛品や完成品の買取先(他メーカー・商社)を探し、売却を進める。
- 使用期限のある原材料は、廃棄・リサイクル・転売などの方法を選択。
- 有害物質を含む材料は、環境規制に従い専門業者に依頼。
取引先との契約解除、注文残の処理を行う
- 未納品の注文について、取引先と協議し対応方針を決定。
- 取引契約の解除条項を確認し、違約金が発生しないよう調整。
- 必要に応じて、取引先へ製造停止の正式通知を送付。
環境規制に則った工場の閉鎖・撤去を実施
- 土壌汚染や排水処理などの環境基準を満たした上で工場を閉鎖。
- 設備撤去後の跡地利用(売却・賃貸・更地化)を決定。
- 工場の解体工事は産業廃棄物処理法に基づき適切に実施。
作業員の労働保険や安全衛生管理の終了手続き
- 労働保険(雇用保険・労災保険)の適切な手続きを進める。
- 安全衛生委員会の解散手続き、保管義務のある記録の整理。
- 解雇通知や退職金支払いを適切に行い、労務トラブルを防ぐ。
7. 不動産業界の解散時のポイント
宅地建物取引業の免許返納手続き
- 宅建業の免許を発行した行政機関へ「宅地建物取引業廃業届」を提出。
- 免許証の返納と、営業保証金の取り扱いを確認。
- 免許返納後は、取引業務を行えないため、顧客対応の整理を行う。
管理物件の契約解除や引継ぎを慎重に対応
- 管理している賃貸・分譲物件のオーナーと契約解除を協議。
- 別の管理会社へスムーズに引継げるよう調整。
- 契約解除に伴う違約金や保証金の処理を明確にする。
顧客との取引履歴を整理し、クレーム対応を終了
- 過去の取引履歴を整理し、必要な書類を保管。
- 未解決のクレーム・訴訟リスクがないかを確認し、対応策を準備。
- 解散後も連絡可能な問い合わせ窓口を設定し、トラブル回避。
事務所の撤退手続きを実施
- オフィスや店舗の賃貸契約解除、原状回復のスケジュールを調整。
- オフィス備品や什器の売却・廃棄を計画的に実施。
- 社員の退職手続きを進め、社会保険・税務関連の処理を行う。
所有不動産の売却・清算処理を適切に進める
- 会社名義で所有する不動産は、売却・譲渡・賃貸のどれを選択するか決定。
- 売却の際は、不動産仲介業者や弁護士と連携し、適正な評価で進める。
- 事業清算に伴い、債務整理や税務処理を専門家と相談。
8. 金融・保険業界の解散時のポイント
金融庁・財務局への報告義務
- 金融業を営んでいる場合、解散にあたり金融庁・財務局へ報告が必要。
- 免許・登録の抹消手続きを進め、法的義務をクリアにする。
- 株主や投資家への正式な通知を実施。
顧客資産の適切な処理と返還
- 預かり資産や顧客口座の残高を確認し、適切に返還処理を行う。
- 解散前に取引を清算し、未処理の資産が残らないよう管理。
- 金融ADR(裁判外紛争解決制度)を活用し、顧客とのトラブルを未然に防ぐ。
保険契約の継続・移管の対応
- 既存の保険契約について、他の保険会社への移管を進める。
- 契約者に対して、補償の継続・終了について明確に説明。
- 移管が困難な場合は、契約解除や返金対応を適切に行う。
残存資産や利益の適切な分配
- 会社の残存資産を整理し、負債を清算。
- 株主・投資家への最終的な利益配分を適切に行う。
- 清算手続きに関わる税務処理(法人税・消費税)を専門家と相談。
金融取引履歴の整理と証券会社との調整
- 証券・投資関連の取引履歴を精査し、必要な報告を行う。
- 金融監督機関の指示に従い、データの保管・削除を適切に実施。
- 取引停止後のトラブルを防ぐため、顧客との連絡窓口を一定期間維持。
おわりに
業種ごとに解散時の注意点や必要な手続きが異なります。事前に関係各所と相談し、適切な対応を進めましょう。