親子間合併とは?
「親子間合併」とは、親会社と子会社を1つの会社に統合することを指します。例えば、社長が100%株式を保有している子会社を、親会社と合併させるケースが該当します。
親子間合併には、以下の2種類があります:
- 吸収合併:親会社が子会社を吸収し、子会社が消滅する。
- 新設合併:親会社と子会社が統合し、新しい会社を設立する(1人会社ではほとんど利用されない)。
親子間合併のメリット
(1) 経営の一本化
- 親会社と子会社の資産・負債・事業を統合し、管理をシンプルにできる。
- 財務状況が明確になり、資金調達もしやすくなる。
(2) 節税効果
- 繰越欠損金の活用:子会社が過去の赤字を抱えている場合、合併することで一定条件のもとで親会社の利益と相殺できる。
- 消費税の節税:売上規模によっては、合併により消費税の納税義務が変わる可能性がある。
(3) 手続きの簡素化・コスト削減
- 子会社の決算や申告、社会保険の手続きを削減できる。
- 役員報酬や事務コストを削減し、経営効率を高められる。
(4) 事業承継の準備
- 将来的に会社を第三者に売却したい場合、複数の法人を整理しておくとスムーズに進められる。
親子間合併の費用
親子間合併にかかる主な費用は以下のとおりです。
項目 | 費用目安(円) |
---|---|
登記費用(登録免許税) | 6万円〜(親会社の変更及び子会社の解散登記) |
官報公告費用 | 約15万円程度(決算公告未了の株式会社の場合) |
専門家代行費用 | 要見積もり |
親子間合併の大まかな手続き
-
合併契約の締結
- 親会社と子会社で合併契約書を作成(存続会社・消滅会社を決める)。
-
株主総会の承認(1人会社なら社長の決定)
- 1人会社であれば、議事録を作成するだけでOK。
-
債権者への公告・催告
- 官報公告を行い、債権者の異議を確認(最低1か月)。
- 債権者が0の場合でも官報公告は必須。
-
合併登記の申請(法務局)
- 合併の効力発生日を決め、登記申請を行う。
-
税務・社会保険関連の届出
- 合併による法人税・消費税の届出、社会保険手続きを行う。
税務上のメリット
(1) 繰越欠損金の活用
- 子会社が赤字で、親会社が黒字の場合、合併することで欠損金を活用し、法人税を軽減できる(ただし一定の要件あり)。
(2) 資産の引き継ぎがスムーズ
- 合併では、不動産や知的財産、設備などをそのまま移転できるため、事業譲渡より税負担が少ない。
(3) 配当の二重課税がなくなる
- 子会社が利益を出している場合、合併すれば親会社へ配当を出す必要がなくなり、法人税の負担を減らせる。
親子間合併の注意点
- 欠損金の制限
- 合併後に繰越欠損金が使えない場合がある(100%子会社なら適用しやすい)。
- 負債も引き継ぐ
- 子会社の借入金・未払金をすべて引き継ぐことになる。
- 官報公告が必要
- たとえ親子会社でも、合併公告をしなければならず、最低1か月の期間がかかる。
- 社会保険・税務手続きが必要
- 合併後の新しい法人として、税務署・年金事務所などへ届け出が必要。
単に解散するか、親子間合併させるかの判断ポイント
1人会社(社長が親会社・子会社を100%保有)の場合、子会社を清算(解散)するか、親子間合併で統合するかを選ぶことになります。それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、判断ポイントを解説します。
基本的な違い
親子間合併 | 解散・清算 | |
---|---|---|
手続きの手間 | 官報公告・合併契約などが必要 | 官報公告・債務整理などが必要 |
費用 | 登記費用・公告費用がかかる | 登記費用・公告費用・残余財産の処理費用がかかる |
税務面 | 資産・負債を引き継げる(税負担を抑えられる可能性あり) | 清算時に資産売却益に税金がかかる |
債務の引き継ぎ | すべて親会社に引き継がれる | 債務を完済しないと清算できない |
契約・許認可の引き継ぎ | 原則、契約もそのまま継続 | 契約は終了し、再契約が必要 |
従業員の扱い | そのまま雇用継続可能 | 新会社で再雇用が必要 |
親子間合併を選ぶべきケース
① 子会社の資産や事業を親会社で活用したい場合
- 子会社に不動産、機械設備、知的財産(商標・特許)がある場合、合併すれば親会社でそのまま活用できる。
- 解散すると、資産は売却が必要になり、譲渡所得税が発生する可能性がある。
② 繰越欠損金を活用したい場合
- 子会社が過去に赤字を計上しており、繰越欠損金がある場合、一定の条件を満たせば合併後に親会社でその損失を引き継げる。
- 税負担を抑えるために合併するのは合理的な選択肢。
③ 子会社に借入金がある場合
- 解散する場合、借入金は精算しなければならず、銀行への一括返済が必要になる。
- 親子間合併なら、借入金を親会社が引き継げるため、返済負担を回避できる可能性がある。
- ただし、銀行と事前に相談し、合併後の借入条件を確認することが重要。
④ 子会社の契約や許認可を引き継ぎたい場合
- 取引先との契約、許認可(建設業、運送業、飲食業など)がある場合、合併すればそのまま維持できる。
- 解散すると契約は終了し、新たに親会社名義で契約を結ぶ必要があるため、取引先との調整が発生する。
⑤ 従業員をそのまま雇用したい場合
- 合併すれば、従業員の労働契約をそのまま引き継げる。
- 解散すると、一度解雇→親会社で再雇用となり、雇用契約の変更が必要になる。
解散を選ぶべきケース
① 子会社に負債がなく、事業が不要な場合
- 負債がない子会社を整理するだけなら、解散・清算の方がスムーズ。
- 特に、事業活動を停止している会社なら、合併の手間をかけるより清算した方が手続きがシンプル。
② 親会社で子会社の事業を続ける予定がない場合
- 親会社で子会社の事業を継続しないなら、無理に合併するメリットがない。
- 例えば、子会社が一時的なプロジェクト会社だった場合、目的を達成したら解散する方が適切。
③ 子会社の繰越欠損金が活用できない場合
- 合併しても、税務上の要件を満たさないと、子会社の繰越欠損金を活用できないケースがある。
- 例えば、合併後の事業が継続しない場合、欠損金の引き継ぎが認められないことがある。
④ 取引先との契約がない、または終了予定の場合
- 子会社が取引を終了しているなら、契約の引き継ぎを考慮する必要がないため、解散が簡単。
⑤ 親会社の財務状況が悪く、負債を引き継げない場合
- 親会社の経営が不安定で、子会社の負債を引き継ぐと財務状況が悪化する場合、解散して清算する方が安全。
手続き・費用の比較
親子間合併 | 解散・清算 | |
---|---|---|
登記手続き | 合併登記が必要 | 解散登記・清算結了登記が必要 |
官報公告 | 必要 15万円~(決算公告未了の場合) | 必要 38,000円程度 |
費用の目安 | 6万円~(登記費用) | 41,000万円(登記費用) |
税務リスク | 事業承継型なら繰越欠損金を活用できる可能性あり | 資産売却時に法人税・消費税が発生する可能性あり |
期間 | 2〜3か月程度 | 3か月〜1年(清算状況による) |
判断ポイントのまとめ
親子間合併が適している場合
- 子会社の事業・資産・契約を活用したい
- 繰越欠損金を活用して節税したい
- 借入金があり、一括返済を避けたい
- 許認可・取引契約を維持したい
- 従業員をそのまま雇用したい
解散・清算が適している場合
- 子会社の事業が不要
- 負債がなく、契約もないため整理しやすい
- 税務上の繰越欠損金を活用できない
- 事業を親会社で継続する予定がない
親子間合併における法律上の注意点やポイント
親子間合併の実施を決定した場合でも、比較的スムーズに進められますが、法律上の注意点もいくつかあります。事前に確認しておかないと、後で問題になることもあるため、以下のポイントに気を付けましょう。
債権者保護手続きが必要
合併では、消滅会社(子会社)の負債・債務も存続会社(親会社)に引き継がれるため、債権者に対する保護手続きが法律で義務付けられています。
具体的な手続き
- 官報公告(合併決定後、1か月以上の期間を空ける必要あり)
- 個別通知(必要な場合):特定の債権者には個別に通知することが推奨される
ポイント
- 債権者が異議を申し立てた場合、その対応が必要になる(場合によっては合併計画の修正や保証の提供が求められる)。
- 負債の引き継ぎが想定以上に負担になることがあるため、事前に債務状況を整理しておく。
- 債権者がいなくても官報公告は行う必要がある。
取引契約・許認可の引き継ぎ
合併によって会社が消滅するため、子会社が持っていた契約や許認可の取り扱いに注意が必要です。
(1) 取引契約の引き継ぎ
- 一般的な契約(リース契約、取引基本契約など)は合併とともに自動的に存続会社に引き継がれるが、契約内容によっては合併で失効する可能性があるため、事前に契約書の確認が必要。
- 金融機関との借入契約は合併により条件変更や担保の見直しを求められるケースがある。
(2) 許認可・免許の引き継ぎ
- 建設業、運送業、飲食業、医療系事業などは、事業許可・免許が必要な場合があり、合併後に改めて許可申請が必要になることがある。
- 業種によっては合併による許可の失効を避けるため、事前に行政機関へ確認が必要。
税務上の留意点
合併による税務処理は、通常の法人税の計算と異なるため、注意が必要です。
(1) 繰越欠損金の引き継ぎ制限
- 100%親子会社の合併であっても、子会社の繰越欠損金が必ずしもすべて活用できるわけではない。
- 一定の条件を満たさないと、繰越欠損金の控除が制限される(事業継続要件など)。
(2) 合併時の資産評価
- 子会社の資産を親会社に引き継ぐ際、適正な時価評価が求められるケースがある。
- 特に、不動産などは評価額によって税務上の取り扱いが変わるため、注意が必要。
(3) 消費税の取り扱い
- 合併によって売上規模が変わると、消費税の免税事業者の要件が変わる可能性がある。
- 子会社が免税事業者だった場合、合併後の親会社が消費税を納める義務を負うケースがある。
親子間合併と合併対価について
合併対価とは?
合併対価とは、合併の際に存続会社(親会社)が消滅会社(子会社)の株主に対して支払う対価のことです。通常、以下のような形で支払われます。
(1) 親会社の株式を交付する(株式交付型)
- 一般的な合併対価の方法
- 例えば、親会社の株式1株を子会社の株式10株と交換する、という形で対価を設定。
(2) 金銭を交付する(現金交付型)
- 親会社が子会社の株主に対して現金で対価を支払う。
(3) その他の資産(不動産、事業資産)を交付する
- 珍しいケースだが、特定の事業譲渡と組み合わせる場合に利用されることもある。
100%子会社の合併では合併対価が不要
1人会社の場合、社長が親会社・子会社の両方の100%株主であるケースが多いため、合併対価のやり取りは不要になります。
- 子会社の株式はすべて親会社が保有しているため、合併後は自社株が消滅する。
- そのため、親会社が新株を発行する必要もなく、金銭を支払う必要もない。
- このため、1人会社の親子間合併は、通常の合併に比べて手続きが簡単になります。
100%子会社ではない場合の合併対価の取り扱い
100%子会社でなく、一部の株主が子会社の株を持っている場合は、合併対価を決定しなければなりません。
(1) 株式交換比率の設定
- 例えば、親会社の株式1株に対して、子会社の株式2株を交換する、というように交換比率を決める。
- 公平性を確保するため、財務諸表や資産評価に基づいて決定する必要がある。
- 特定の株主が損をしないように注意。
(2) 少数株主への現金交付(スクイーズアウト)
- もし親会社が95%以上の株を持っている場合、少数株主を強制的に買い取る「スクイーズアウト」を行い、100%子会社化することも可能。
- 少数株主が納得する価格(適正な時価)で現金を支払う必要がある。
合併対価の税務上の扱い
合併対価の設定によって、税務処理が変わるため注意が必要です。
(1) 株式交付の場合(通常は課税なし)
- 株主が合併対価として新株を受け取る場合、原則として株主に税金はかからない(適格合併)。
- ただし、株式交換比率が不公平な場合や、株主が合併前後で持ち株比率を大きく変える場合は、課税リスクがある。
(2) 金銭交付の場合(譲渡所得課税の可能性あり)
- もし合併対価として現金が交付された場合、子会社の株主には譲渡所得税がかかる。
- 法人株主の場合は法人税、個人株主の場合は譲渡所得税が適用される。
まとめ
- 1人会社の親子間合併では、基本的に合併対価のやり取りは不要で、手続きが簡単。
- 子会社の事業・資産・契約を活用したい場合は「親子間合併」が有利(繰越欠損金の活用や許認可の引継ぎが可能)。
- 事業を継続せず、負債もないなら「解散・清算」がシンプルで手間が少ない。
- 借入金がある場合、合併なら一括返済を避けられるが、解散では完済が必要。
- 契約・許認可・従業員の継続が重要なら合併、契約終了で問題なければ解散。
- 税務面を考慮し、合併後の節税メリットがあるかを専門家と確認するのがベスト。
親子間合併は、1人会社でも事業の一本化・節税・手続きの簡素化など多くのメリットがあります。特に、欠損金の活用や配当の二重課税回避は大きなポイントです。
会社をスリムにして経営を効率化したい、節税対策をしたい、と考えているなら、親子間合併を活用するのも一つの選択肢になります。