休眠会社として放置するデメリットを解説

会社を設立したものの、事業を停止している状態の「休眠会社」。解散・清算せずにそのままにしておくことには、事業を再開しやすいなど一定のメリットもありますが、デメリットも無視できません。

以下では、休眠会社として放置することの主なデメリットを解説します。

休眠会社でも税務申告義務は継続する

① 「事業をしていない=申告不要」ではない

会社が休眠状態であっても、法人税や消費税の申告義務は継続します。
事業収入がゼロであっても、税務署には毎年「法人税の確定申告書」を提出する必要があります。

必要な申告
  • 法人税申告書(所得がなくても提出義務あり)
  • 法人住民税申告書(原則、均等割の支払い義務あり)
  • 消費税申告書(課税事業者であれば必要)

特に、法人住民税は最低でも年間7万円の均等割が課せられるため、納税を怠るとペナルティの対象となる可能性があります。

② 申告をしないと税務署に「無申告法人」としてマークされる

税務署は、法人が毎年税務申告を行っているかを管理しています。
もし2年連続で申告がないと、税務署のシステムで「無申告法人」として認識され、調査対象になる可能性が高くなります。

税務署が疑問に思うポイント
  • 「本当に事業を行っていないのか?」
  • 「隠れた収入があるのではないか?」
  • 「未払いの税金があるのではないか?」

申告漏れが発覚すると「延滞税・加算税」が発生

① 延滞税が発生

税務署が無申告の法人を調査し、納税義務があると判断すると、延滞税が課せられます。
延滞税の計算方法

  • 納付期限の翌日から年率7.3%(または14.6%)の延滞税が発生
  • 放置期間が長いほど、延滞税額が膨れ上がる

② 無申告加算税が課される

さらに、無申告が発覚すると「無申告加算税」が発生します。

  • 50万円以下の部分:10%
  • 50万円を超える部分:15%
  • 税務署の指摘を受ける前に自主的に申告すれば5%に軽減

長期間放置していると、これらの延滞税・加算税の合計で大きな負担が生じることになります。

法人住民税の均等割が発生

たとえ事業を行っていなくても、株式会社や合同会社には最低限の法人住民税(均等割)が原則発生します。
均等割の金額(東京都の場合)

  • 資本金1,000万円以下:年額 7万円
  • 資本金1,000万円超:年額 18万円以上(都道府県・市町村による)

このように、事業を行っていない場合でも、原則として毎年7万円以上のコストがかかります。

なお、管轄によって免除してもらえるケースはあるようですので個別に確認する必要があります。

申告を怠ると「青色申告の承認取り消し」のリスク

休眠会社でも、適切に申告を続けていれば青色申告の特典(欠損金の繰越控除など)を維持できます。しかし、無申告の状態が続くと、税務署によって青色申告の承認が取り消されることがあります。

青色申告の取消しで損するポイント

  • 欠損金(赤字)の繰越控除ができなくなる
  • 各種税制優遇措置が受けられなくなる
  • 今後事業を再開する際に税負担が増える

特に、赤字を繰り越して法人税の負担を抑えようとしていた場合、無申告によってこの特典を失うことになるため、大きな損失となります。

休眠会社として解散公告される可能性

会社法では、最後の登記から12年が経過した株式会社を「休眠会社」とみなし、法務局から「解散公告」が出されます。
公告後2ヶ月以内に「まだ会社を継続する」旨の届出をしないと、会社は解散したものとみなされます。

そして、みなし解散となった場合、最大で100万円以下の過料となる可能が高くなります。

失業保険(雇用保険の基本手当)が受け取れない

① 代表取締役・取締役である限り「失業者」とみなされない

失業保険(雇用保険の基本手当)は、「労働者」が失業した場合に受け取れる制度ですが、会社の代表取締役や役員に就任している限り、「労働者」ではなく「経営者」とみなされるため、失業保険を受給することができません。

休眠会社の役員でもNG

たとえ会社が休眠状態で、収入が一切なくても、登記上の役員として残っているだけで失業保険は受け取れません。
失業保険を受け取るには、役員を辞任し、法務局に役員変更の登記を行う必要があります。

例外:役員でも失業保険を受け取れるケース

  • 取締役であっても、単なる「名ばかり役員」であり、実態として労働者だった場合(ただし、証明が困難)
  • 会社の代表取締役を辞任し、非常勤の取締役になり、実態として働いていないと認められた場合
  • 役員を辞任し、会社との関係を完全に断ち、ハローワークで「失業状態」と認定された場合

各種助成金・補助金を受けられない

① 個人事業主向けの補助金が対象外になる

例えば、小規模事業者向けの補助金や給付金は、「法人の代表者・役員」は申請できないものが多いです。

対象外になりやすい助成金・補助金

  • 小規模事業者持続化補助金
  • 事業復活支援金
  • フリーランス向け支援金 など

休眠会社の代表取締役として登記されていると、たとえ実質的に事業を行っていなくても「法人経営者」とみなされ、フリーランスや個人事業主向けの支援金を受けられない可能性があります。

金融機関・税務署からのチェックリスク

① 住宅ローンやクレジットカード審査に不利

法人の代表取締役として登記されていると、個人の信用情報にも影響を与えることがあります。

  • 住宅ローン審査
    • 代表取締役=「経営者」とみなされるため、安定した給与所得がないと審査が厳しくなる
    • 休眠会社で売上がゼロでも「経営者」であることに変わりないため、会社員より不利
  • クレジットカード審査
    • 事業を行っていないとみなされると、法人カードが発行停止されることも

まとめ

  • 休眠会社でも法人税・住民税の申告義務がある
  • 12年以上登記を放置すると、法務局の「みなし解散」で会社が強制的に解散される
  • 税務調査で「隠れた収入」を疑われると、追徴課税の対象になる可能性がある

休眠会社を放置すると、無申告による税務調査や延滞税・加算税のリスクが高まり、法人銀行口座の凍結や「みなし解散」による強制的な会社消滅の可能性もあります。

今後事業を再開するなら適切な申告を継続し、完全に辞めるなら早めの解散・清算が最も安全です。税務署にマークされる前に、適切な手続きを行いましょう。