みなし解散とは、一定の条件を満たした法人が法的に解散したものとみなされる制度です。
しかし、みなし解散された法人は即座に消滅するわけではなく、清算手続きを経る必要があります。
本記事では、みなし解散されるまでの手続きや、みなし解散された法人を完全にたたむ方法について、網羅的に解説します。
1. みなし解散とは?
みなし解散とは、法人が一定期間登記上の活動を行っていない場合に、法務局が職権で解散したものとみなす制度です。具体的には、以下の条件のいずれかを満たすと、みなし解散が適用される可能性があります。
- 株式会社の場合
過去12年間、登記の変更(役員変更など)がない場合、法務局から「みなし解散の公告」がなされる。 - 一般社団法人・一般財団法人の場合
5年間、登記の変更がない場合。
みなし解散がされると、法務局の公告後2ヶ月以内に異議を申し立てない限り、法人は法的に解散状態となります。
ただし、解散しただけでは法人格は残るため、清算手続きを完了しない限り完全に法人を閉じることはできません。
2. みなし解散となるまでの手続きの流れ
① 法務局が対象法人を調査
法務局は、定期的に登記が長期間変更されていない法人を調査します。
調査の結果、みなし解散の対象になりそうな法人には、事前に通知が送られることがあります。
- 登記の変更が長期間ない法人をリストアップ
- 法務局が法人の現状を確認
- 事前通知を送ることもある(必ずしも送られるとは限らない)
② 官報公告・法務局のウェブサイトで公告
法務局が「この法人は長期間登記がないため、みなし解散の対象になります」と公告を行います。
- 官報に公告される(解散の公示)
- 法務局のウェブサイトにも掲載
③ 法務局から法人へ通知書が送付
法務局から、対象となった法人の登記簿上の所在地へ「みなし解散の通知書」が送付されます。
- 通知書が法人の登記住所へ届く
- 登記住所が実態と異なる場合、届かないこともある
④ 2ヶ月以内に「存続届」または「異議申し立て」をしない場合、解散確定
公告後2ヶ月以内に、法人が何も対応しなければ、みなし解散が確定します。
- 存続を希望する場合:「事業継続届出書」を提出する
- 登記懈怠を解消する場合:「役員変更登記」などを行う
回避方法の詳細は後述します。
⑤ みなし解散が確定し、登記簿に「解散」記録が追加
公告後2ヶ月経過し、異議申し立てがない場合、法人の登記簿に「解散」の登記が記載されます。
- 登記簿には「解散」記録が追加
- 法人は法的に「解散状態」となる
- この時点では法人格は残っている(清算手続きが必要)
⑥ 清算手続きへ移行(完全に法人をたたむ場合)
みなし解散後、法人格を完全に消滅させるには、清算手続きが必要です。
- 清算人を選任(通常は代表取締役が自動的に清算人となる)
- 財産や負債の整理
- 清算結了登記を行い、法人を正式に閉鎖
3. みなし解散を回避する方法
みなし解散を避けたい場合、以下の方法があります。
① 事業を継続する場合:「事業継続届出書」を提出
官報公告後2ヶ月以内に、法務局に「事業継続届出書」を提出すれば、みなし解散は取り消されます。
【必要書類】
□事業継続届出書(法務局の窓口で入手可能)
□役員変更登記(長期間登記をしていなかった場合、合わせて登記を行う)
② すでにみなし解散された場合:「会社継続登記」を行う
みなし解散が確定した後でも、3年以内であれば「会社継続登記」を行うことで法人を復活させることができます。
【必要書類】
□会社継続登記申請書
□株主総会議事録(または社員総会議事録)
□登録免許税 最低40,000円
ただし、3年を過ぎると復活できなくなるため、注意が必要です。
4. みなし解散後に法人を完全にたたむ手続き
みなし解散を回避せず、解散が確定し、登記簿に「解散」記録が追加された法人は、「清算手続き」を行い、正式に法人格を消滅させる必要があります。
ここからは、主な手順について解説します。
① 清算人の選任の登記
みなし解散となると、代表取締役(または代表社員など)が自動的に清算人となります。
長期間放置しているのが通常のため、登記されている取締役が死亡しているケースも多々あります。
その場合は、家族の誰かが閉鎖まで一時的に就任することも可能です。
② 財産・負債の整理
法人が所有している資産や負債を整理します。
- 資産がある場合 → 売却や精算を行い、残余財産を分配する
- 負債がある場合 → 借入金の返済、未払いの税金や社会保険料の精算を行う
会社の財産・負債はないのが通常ですが、会社名義の不動産や車両がないかは確認しましょう。
③ 残余財産の分配
すべての負債を清算した後に財産が残る場合、定款に定められた方法で株主や社員に分配します。
④ 清算結了登記の申請
財産の整理が完了したら、清算結了の登記を行います。
【必要書類】
- 清算結了登記申請書
- 財産目録および貸借対照表(残余財産がある場合)
- 登録免許税2,000円
登記が完了すると、法人は完全に消滅します。
5. みなし解散法人の税務手続き
みなし解散後、法人を完全にたたむには税務署や地方自治体への届出も必要です。
① 法人税の確定申告
解散時点での法人税申告(解散確定申告)と、清算結了時の申告(清算確定申告)が必要になります。
- 解散確定申告 → 解散日から2ヶ月以内
- 清算確定申告 → 清算結了から1ヶ月以内
② 消費税の申告
消費税の納税義務がある法人は、解散時と清算結了時にそれぞれ消費税申告を行います。
③ 地方税(事業税・法人住民税)の申告
法人税と同様に、解散時と清算結了時に地方税の申告を行う必要があります。
④ 税務署・自治体への届出
- 法人設立届出書の廃止届(税務署・都道府県税事務所)
- 給与支払事務所等の廃止届(従業員がいる場合)
- 消費税の課税事業者届出書の廃止届(該当する場合)
みなし解散と登記懈怠の過料について
みなし解散された法人が放置されると、登記懈怠(とうきけたい)による過料(行政罰)を科される可能性があります。
みなし解散と登記懈怠の関係、および過料の詳細について解説します。
1. 登記懈怠とは?
法人は、一定の事項に変更が生じた場合、法律で定められた期限内に登記を行う義務があります。これを怠ることを「登記懈怠」といい、過料(行政上のペナルティ)の対象になります。
登記懈怠の主なケース
主に以下の変更登記は行う機会が多いため、登記懈怠が発生しやすいです。
登記事項 | 登記義務者 | 期限 |
---|---|---|
役員の変更(取締役・監査役など) | 代表取締役 | 変更後2週間以内 |
本店移転 | 代表取締役 | 移転後2週間以内 |
会社の解散 | 代表取締役 | 解散後2週間以内 |
清算結了 | 清算人 | 清算結了後2週間以内 |
特に、役員変更の登記を怠るケースが多く、長期間放置すると法務局から「みなし解散」の通知を受けることになります。
2. みなし解散と登記懈怠の関係
みなし解散は、長期間登記の変更が行われなかった場合に適用される制度です。そのため、みなし解散された法人は、ほぼ確実に登記懈怠に該当し、過料が科されるリスクも高くなります。
みなし解散の流れ
- 一定期間、登記の変更なし
- 株式会社:12年間、変更登記がない
- 一般社団法人・合同会社:5年間、変更登記がない
- 法務局がみなし解散を公告(官報掲載)
- 官報に公告され、法務局のウェブサイトにも掲載される。
- 公告から2ヶ月以内に異議を申し立てない場合、自動的に解散
- これ以降、法人は清算人が登記義務を負う。
- 過料が科される可能性
- みなし解散前の登記懈怠に対し、過料を科す通知が届くことがある。
3. 登記懈怠による過料の具体的な金額
登記懈怠があった場合、法人の代表者や清算人に対して、裁判所から過料の支払い命令が出されることがあります。
一般的な過料の金額は5万円~100万円ですが、実際の金額はケースによって異なります。
過料の目安
- 軽度の遅延(数ヶ月〜1年未満):5万円~10万円
- 中程度の遅延(1年以上5年未満):10万円~30万円
- 長期間の未登記(5年以上):30万円~100万円
特に、10年以上放置されている場合は、高額の過料が科される傾向にあります。
4. 過料を科されるまでの流れ
- 法務局が登記懈怠を発見
→ みなし解散の調査中に発覚することが多い。 - 裁判所へ通知
→ 法務局は、登記懈怠の事実を裁判所に報告。 - 裁判所から法人の代表者(または清算人)に弁明の機会が与えられる
→ 「過料納付命令を出す予定ですが、意見があれば述べてください」と通知が届く。 - 裁判所の判断で過料が決定
→ 代表者・清算人の責任として、個人で支払う必要がある。 - 過料の納付
→ 納付期限までに指定の金融機関で支払う。
5. 過料を回避・軽減する方法
登記懈怠の過料は、場合によっては回避したり軽減できることがあります。
① 速やかに未登記の手続きを行う
法務局から「みなし解散の通知」や「登記懈怠の警告」を受けた場合、できるだけ早く登記を行うことで、裁判所への報告を回避できる可能性があります。
② 過料の通知が来たら弁明書を提出
裁判所から過料の通知が来た場合、正当な理由(例:経営者の病気、書類の紛失など)がある場合は弁明書を提出することで、減額される可能性があります。
6. まとめ
法人を放置すると、未払い税金や債務の問題が発生する可能性があるため、適切な手続きを踏んで完全に法人をたたむことが重要です。