今回はNPO法人(特定非営利活動法人)の解散手続き・廃業・たたみ方について解説します。
NPO法人も株主総会や合同会社の解散手続きと大まかな流れは変わりません。
ですが、NPO法人は、設立するのに市区町村の認可が必要であったり、毎年事業報告をしなければいけなかったりと、公益性の高い法人であることから、財産の取扱い方に特徴があると言えます。
そこで、今回はNPO法人(特定非営利活動法人)の解散手続きで、どのような手続きが必要なのかを解説します。
NPO法人とは?(法人の特徴)
法人格
NPO法人とは、簡単に言えばボランティア団体を、より組織として動きやすくするために設立された法人です。
単に市民が集まって〇〇団体と名乗っているより、国に認可を受けた法人の方が活動しやすいです。NPO法人になるためには、国に認可を受けてから、法人の設立をする必要があります。法人設立をすることによって、国(法務局)から発行される登記事項証明書により、法人の存在を公に証明することが可能です。
これにより、NPO法人名義で、不動産を所有したり、取引をしたり、事業資金を借りたりといったことがしやすくなります。単なる団体のままでは、ひとまず代表者個人でこれらをしなければいけませんから、団体名義の財産とはできません。
法務税務の扱いも全く異なり、税制上の優遇措置から、NPO法人は寄付を受けやすくなるといったメリットもあります。
一方で、公益性の高いNPO法人として活動するには、特定非営利活動促進法という法律に基づいた運営が必要となります。
社員総会の開催ルールや本記事の解散に関するルールも特定非営利活動促進法という法律に基づて適切に行う事が求められるようになります。
定期的な事業報告
また、NPO法人の特徴の一つとして、毎年、所轄庁に事業報告書を提出しなければなりません。
報告書には活動内容の報告や財産目録、社員名簿などがあり、内閣府NPOのHPに資料が掲載されます。
ですから、NPO法人の実態については、株式会社や合同会社よりも広く公開されていて、誰でも調べやすくなっています。
役員と社員による社員総会の運営
また、NPO法人では理事3名、監事1名が最低必要員数です。員数が足りなくなったら、代わりの誰かを見つけなければなりません。株式会社でいう取締役や監査役の役職にあたります。
他に、NPO法人には社員(=正会員という意味で、会社の従業員という意味ではないです。)が最低10名必要です。活動に賛同してくれる人が最低10名はいないとNPO法人として活動することはできません。
設立後もNPO法人の活動に賛同している人であれば基本的にだれでも社員(正会員)になることができます。社員になりたい人を、NPO法人は正当な理由なく拒むことはできません。
入会金や年会費はNPO法人ごとに決めれていますが、社員になると、一人ひとり議決権をもつことになります。NPO法人の重要な運用方針は、この社員がもつ議決権によって決められることになっています。いわゆる社員総会です。
社員総会では、例えば、次のような決議を行います。
などです。
つまり、NPO法人の重要な運営方針や在り方は、入会した社員(正会員)たちが決めて、個別具体的な最終決定は理事(理事会)が行うことになっています。
NPO法人を解散する理由
本題ですが、NPO法人も活動資金が必要ですし、賛同してくれる会員がいないと活動機能もどんどん低下していくでしょう。
NPO法人は、ボランティアや寄付金、助成金によって運営されることが多いため、以下のような状況で活動の継続が難しくなり、解散に至るケースがあります。
- 資金不足:寄付金や助成金の減少により、事業運営が維持できなくなる。
- 人手不足:理事やスタッフの高齢化、後継者の不在などにより運営が困難になる。
- 社会的ニーズの変化:設立当初にあった社会的課題が解決されたり、活動が他の団体に引き継がれたりすることで役割を終える。
あまり存続させておく必要なくなってしまった場合は解散することも考えられます。
その場合は、まずは、社員総会で解散の決議をする必要があります。
大抵のNPO法人の定款には、次のような条文があると思います。
第〇条 この法人は、次に掲げる事由により解散する。
(1) 総会の決議 2 前項第1号(総会の決議)の事由によりこの法人が解散するときは、正会員総数の4分の3以上の承諾を得なければならない。 |
このような定款の場合は、社員総会(正会員)で、4分の3以上の承諾があればNPO法人は解散となります。
NPO法人を解散するにはまず何をすればいいのか?
上記のとおり、NPO法人を解散する場合に、まず最初に行うことは、社員総会で解散決議をすることです。
決議の方法は、下記による方法が一般的です。
- 社員総会での決議
- 社員全員の同意による書面決議
①の社員総会で決議の場合には、事前に各社員の方に通知して、いついつに総会をしますので、お集まりくだいという通知をしていくことになります。
通常は、定款に、正会員(社員)総数の2分の1以上の出席がなければ開会することができないと定められてると思いますので、半分以上(社員が10名の場合は5名)の方が集まらないと総会が開けません。そして、集まった社員の方の内、4分の3以上の承諾で、解散は可決します。
【通知書の例】
また、もう一つの決議の方法として、社員全員の方から、メールや書面で、決議内容への同意を取る方法もあります。決議の内容について、社員全員から同意が得られる場合は、一堂に会する総会を開かずに決議を行うことが可能です。
【法第14条の9】理事又は社員が社員総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき社員の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは,当該提案を可決する旨の社員総会の決議があったものとみなす。 |
電磁的記録というのは、メールなどでの回答を含みます。
場所をとらず楽な方法ですが、社員全員から漏れなく同意を取る必要があるというところが重要です。
また、決議議案については、下記2点への同意を取ることが一般的です。
場合によっては残余財産の譲渡先や役員退職金についても決定をする場合もありますが、この点は後述します。
- 第1号議案 当法人解散の件
- 第2号議案 清算人選任の件
清算人選任の議案は必須ではありませんが、何も決議しない場合は、理事がそのまま清算人になります。
一般的には、代表理事のみ清算人として残ることが多いと思いますので、1名だけ選任する場合は、議題に上げます。
【提案書・同意書の例】
解散時の役員退職金について
NPO法人の解散により役員が職を失うため、長年の功績に対する報酬として退職金を支給するケースもあります。
NPO法人の役員退職金は支給できるのか?
NPO法人の役員(理事や監事)に退職金を支給することは可能です。ただし、適正な範囲であることが求められます。
営利企業とは異なり、NPO法人は「共益」ではなく「公益」のために運営される組織のため、不当に高額な退職金を支払うことは認められません。
役員退職金を支給するための条件
NPO法人が役員に退職金を支払うには、以下の条件を満たす必要があります。
定款や規程に明記されていること
退職金の支給については、法人の定款や役員退職金規程に明確な基準を定める必要があります。
「どのような場合に、いくら支給するか」が不透明だと、適正な支給とは認められません。
社員総会または理事会の承認を得ること
役員退職金の支給は、法人のガバナンス上、社員総会や理事会で決議を行う必要があります。これにより、恣意的な決定を防ぐことができます。
「社会通念上相当」と判断できる金額であること
退職金の金額は、法人の財務状況や役員の貢献度を考慮した合理的な範囲である必要があります。
例えば、類似のNPO法人の水準と比較するなど、市場相場を参考にして決めるのが望ましいです。
税務上の注意点
NPO法人の役員退職金に関する税務上のポイントは以下のとおりです。
法人側の取り扱い(損金算入)
NPO法人は、法人税法上の非営利型法人であれば、収益事業以外の活動に関して法人税が課されません。
しかし、収益事業を行っている場合、その事業に関する役員退職金は損金算入(経費計上)できるかどうか慎重に判断する必要があります。
役員側の取り扱い(所得税)
役員が受け取る退職金は、「退職所得」として所得税が課税されます。退職所得には税制上の優遇措置(退職所得控除や1/2課税)が適用されるため、一般的な給与よりも税負担は軽くなります。
役員退職金の適正な決め方
適正な退職金額を決めるには、以下の基準を考慮するとよいでしょう。
- 在職期間:長年貢献した役員には一定の退職金を支給するのが妥当
- 法人の財務状況:過大な退職金が法人の運営に悪影響を与えないか
- 他のNPO法人の水準:同規模のNPO法人と比較して適正な額か
- 社会通念上の妥当性:第三者が見ても合理的な金額か
NPO法人の役員退職金は適正な範囲で支給可能ですが、定款や退職金規程を整備し、社員総会・理事会の承認を得た上で、社会的に適切と判断される金額を支給することが重要です。
NPO法人は解散した後に何をするのか?
ここからは解散した後の手続きについてです。解散しても、いきなり法人消滅というわけにはいきません。通常、売掛金の回収や、買掛金や借入金の返済などの残務整理が必要でしょう。
よく誤解しがちですが、解散というのは、「これから清算手続きにはいります」という基準日のようなもので、解散したからといって終わりというわけではありません。
あくまでも、法人として活動は停止しますが、いまだに存続している状態です。
公に、現在完全閉鎖に向けて清算中です、という状態にするのが解散ですので、解散した後に、具体的な残務整理をしていくことになります。
具体的な流れは、所轄庁の各HPに載ってますので引用します。
【千葉県の解散(総会決議による解散)を行う場合のフロー引用】
上記のフローをシンプルにすると下記となります。
- 解散決議とその登記申請手続き
- 所轄庁へ解散届出の提出
- 清算事務(財産の整理)、官報公告
- 清算結了の登記申請手続き
- 所轄庁への清算結了届出の提出
NPO法人の解散から法人消滅までの流れ
①社員総会で解散の決議
まずは先述したとおり社員総会で解散の決議をします。
定款で理事会の決議も必要としている場合は、理事会でも決議します。
②法務局へ解散・清算人就任の登記手続き
次に、管轄の法務局へ解散、清算人就任の登記手続きをします。
必要な書類は下記になります。
・解散登記申請書 ・法人の定款 ・社員総会議事録(理事会議事録) ・清算人の就任承諾書 ・清算人個人の印鑑証明書 ・印鑑届出書 |
なお、NPO法人の場合は登録免許税は非課税です。
登記が完了すると、登記事項証明書に年月日社員総会の決議により解散と記載されます。
③所轄庁への解散届出(事業報告)
解散登記が完了した後に発行した、登記事項証明書と合わせて所轄庁に解散したことを届け出ます。
なお、NPO法人は毎年、所轄庁に事業報告をする必要があります。解散した年も事業報告が必要なのかですが、管轄する地域の所轄庁によって対応がことなりますので、確認する必要があるでしょう。
前年度の事業報告もまだやってない・・という場合でも、解散するなら報告を免除されるケースもあれば、しっかり出してくださいと言われる場合もあると思います。
④官報公告(清算公告)・債権者への個別催告
次に官報公告(清算公告)・債権者への個別催告を実施します。債権者が一人もいなくても法律上は官報公告することになっています。官報公告については、以下をご覧ください。

⑤税務申告(課税事業を行っている場合)
NPO法人でも納税が必要な場合は、解散日まで(解散期)の確定申告が必要です。
解散日と決算期の関係について、よく分からない方は、こちらで分かりやすく解説しています。

⑥社会保険の資格喪失届
社会保険に加入している場合は、年金事務所への適用事務所喪失届出を出します。
下記の記事でも詳細を解説しています。

⑦売掛金の回収、買掛金、借入金の返済等の清算業務
NPO法人名義の財産として、賃貸借契約や、不動産、銀行口座や車両、事業要の機器など、なにかしらあるのではないでしょうか。
棚卸しして財産目録を作成して整理しましょう。
また、活動資金を金融機関から借り入れをしていたり、買掛金の支払いがまだの場合は、これらを整理していきます。
⑧清算結了の報告と清算結了の登記手続き
法人の財産整理が終わったら、清算人は社員に対して清算事務報告を行います。NPO法人の場合は特に社員総会を開いて清算結了の承認を受ける必要はありません。
登記手続きの添付書類は下記になります。
・清算事務報告書 |
⑨所轄庁への清算結了届出
清算結了の登記が完了した後に発行した、閉鎖登記事項証明書と合わせて所轄庁に清算結了したことを届け出ます。
清算結了し法人が完全に消滅すると、閉鎖事項全部証明書となります。
![]() 中略 |
NPO法人の廃業・解散・たたむための手続き期間は?
解散後は上記の清算手続き・処理を行っていきますが、手続き期間は概ね3か月となります。
上記手続きに④官報公告(解散公告)の掲載がありますが、これは解散した後に遅滞なく申し込み、2カ月間は掲載しなければなりません。最低2カ月間は解散したことを官報公告に掲載し、債権者に知らせる期間として法律上決まっています。
この規定により、解散手続きの期間を2カ月以内に短縮することはできず、各種の手続き期間も考慮すると完全閉鎖まで最短でも3カ月は掛かります。
官報公告掲載から2カ月経過し、かつ、清算業務を終えたら、清算結了して法人を消滅させることができます。
もちろん、財産整理がまだ残っている場合は、清算結了できませんので、2、3カ月以上掛かることになります。
もし、法人の資産をもって、すべての負債を返しきれない場合は、裁判所にて「破産手続」を検討する必要があります。
NPO法人の残余財産の帰属・取り扱い
冒頭で述べた通り、NPO法人も基本的に株式会社等の清算手続きと同じですが、特徴は残余財産の取扱についてです。
NPO法人の残余財産の帰属先のルールは下記のように決まっています。
- 社員総会の決議で決定
- あらかじめ定款で定める
社員総会の決議で決定
一般的に、ほとんどのNPO法人の定款には次のような形で記載されていると思います。
「この法人が解散(合併又は破産による解散を除く。)したときに残存する財産は、法第11条第3項に掲げる者のうち、解散総会で議決したものに譲渡するものとする。」 |
法第11条第3項に掲げる者は、下記と定められています。
【法第11条3項】 上記第⑫(解散に関する事項)に掲げる事項中に残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、特定非営利活動法人その他次に掲げる者のうちから選定されるようにしなければならない。
① 国又は地方公共団体 ② 公益社団法人又は公益財団法人 ③ 私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条に規定する学校法人 ④ 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)第二十二条に規定する社会福祉法人 ⑤ 更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)第二条第六項に規定する更生保護法人 |
残余財産の譲渡先を定款で決めていない場合は、解散の決議時に、譲渡先を決める決議も必要です。
ただし、NPO法人は公益性の高い存在ですので社員や、理事、知人の会社などへは財産の譲渡ができないことになっています。
残余財産の帰属先としては、他のNPO法人、又は上記①~⑤にしなければならないと決められています。
この際、残余財産の引き受け先が決まればいいのですが、なかなか引き受け先の法人がない場合は、所轄庁の認証を得て、残余財産を国又は地方公共団体に譲渡することができる、とされています。
(残余財産の帰属)
第32条 解散した特定非営利活動法人の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除き、所轄庁に対する清算結了の届出の時において、定款で定めるところにより、その帰属すべき者に帰属する。 2 定款に残余財産の帰属すべき者に関する規定がないときは、清算人は、所轄庁の認証を得て、その財産を国又は地方公共団体に譲渡することができる。 3 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。 |
あらかじめ定款で定める
また、事例は少ないものの、下記のようにあらかじめ定款で残余財産の譲受人を決定しているケースもあります。
この法人が解散(合併又は破産による解散を除く。)したときに残存する財産は、法第11条第3項に掲げる者のうち、国に譲渡するものとする。」 |
のように、すでに国や地方公共団体を譲受人として決めているケースです。
国や地方公共団体への引継ぎは困難
実際のところ、行政に財産を引き継ぐ手続きかなり面倒になります。
国又は地方公共団体に財産を引き受けてもらうには、所轄庁や財務省に電話をして、担当職員とやり取りしていくことになります。
NPO法人の残余財産を国又は地方公共団体が引き受けるケースは非常に稀ですので、具体的な手続き方法は確立されておらず、管轄毎に手続きの流れを確認することになります。
ただし、残余財産が多少の現預金などであれば、退職金や総会費用等で消費してしまえばよく、残余財産なしとして清算結了となります。
したがってほとんどのケースでは、残余財産の帰属手続きについて戸惑うことはないでしょう。
残余財産に不動産が含まれる場合
一方で、処理しきれない不動産などが含まれる場合は、国又は地方公共団体等へ引き継ぐ為に、土地の測量や境界確定が必要だったり、建物は基本的に取り壊しが必要だったりと、一気に作業工程が大幅に増えて面倒になります。
資料収集や現地確認などを行い、清算結了まで少なくとも1年以上はかかるでしょう。
この場合、「相続人不存在の場合の財産国庫帰属」の流れを参考に進めて行くことになります。
以上、今回は、NPO法人(特定非営利活動法人)の解散手続き・廃業・たたみ方の解説でした。